いつも聞こえている『ホワイト・ノイズ』ネタバレ解説・感想・あらすじ/White Noise (2022)
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どーも、黒いマスクとマントが欲しい丸山です。 今回は『ホワイト・ノイズ』ですよ。
引用:https://www.imdb.com/title/tt6160448/mediaviewer/rm3705670657 |
この映画は何ですか?
「生と死」です。
あらすじは?
3章に分かれていて、
それぞれ異なる状況における「恐怖」に際した人間を描いています。
プロローグ
第1章 波と放射物/Waves and radiation
主人公の家族模様が描かれます。
大学の講義ではヒトラーの群衆について語られます。
第2章 空媒毒物事象/2. The airborne toxic event
毒物飛散の被害から人々が逃げ出します。
しかし大渋滞のためほとんど動けません。
主人公は毒の雨を浴びてしまいます。
3. Dylarama
主人公と妻の死の恐怖が描かれます。
この章は「3. Dylarama」だけで、日本語の説明がありません。後半で解説します。
みどころは?
死と災難の恐怖
歴史上の群衆、都市規模の災難、個人的な死。
国家、都市、個人と範囲を狭めながら、状況の異なる「恐怖」に遭遇した人々の描写を通して視聴者の死生観に訴えます。
シリアスな笑い
笑わそうとする笑いではなく、真面目な人達が滑稽に見える軽い笑いがあります。
たまにクスっとする程度には面白いですが、全くコメディ映画ではありません。
エンディング
個人的にこのシーンが一番好きです。生を感じられるのです。
オススメポイント
大学教授達のアカデミックな会話が楽しめたり、
ディザスタームービーのような部分もあったり、
色々と楽しめます。
死生観について刺激を受けたい時にはオススメです。
ホラーでもコメディでもない
うっすらとしたコメディ要素はあるものの、コメディ映画ではありません。
主人公の死への恐怖を描くシーンがホラー的ではありますが、ホラー映画ではありません。
ダークコメディでもなければ、ホラーでもスリラーでもないでしょう。
カテゴライズが変な感じです。
テーマが重くなりすぎないように少し愉快な要素を駆使している程度に理解するのが良さそうです。
どこで観れますか?
Netflixオリジナルなので、Netflixでどうぞ。
https://www.netflix.com/title/81317320
章別の考察
適当に観るとただの災害映画としても観れますが、テーマは死です。
しかし重苦しさは一切なく、俯瞰的な笑いが駆使される事で軽快な展開となっていて、とても見やすいです。
それでは、見やすさの奥にある実際のテーマについて見ていきたいと思います。
第1章 波と放射物/Waves and radiation
このタイトルが示しているのは、
ヒトラーと群衆、そして
事故と毒物だと思います。
ヒトラーと群衆は、ヒトラーが放射物、群衆が波です。
事故と毒物では、毒物が放射物、事故が波です。
放射物はRadiationの翻訳ですが、Radiationは放射のほかによく使われる意味として、放射線があります。
プルトニウムとかの被害で出てくるアレですね。
つまり、放射物は致死的な毒物を意味します。
波は「拡散させるもの」です。
ヒトラーという歴史上の強毒が群衆によって拡散されていった。
貨物の毒物が事故によって拡散されていった。
そういった、災難が拡散されていく事をテーマにしていると考えられるでしょう。
第2章 空媒毒物事象/2. The airborne toxic event
「空媒毒物事象」という日本語はないので、英語をそれっぽく翻訳したものでしょう。特に意味はありません。毒の雲の被害を映画内でそう呼んでいるという事です。
貨物爆発の影響で毒物が拡散し、毒の雲となって街に被害をもたらします。
その被害は、「デジャヴを見る事」だとか。
街から逃げていた人々はキャンプ場で避難していましたが、被害が拡大してパニックになり、再び移動を始めます。
みんなが同じ方向に逃げれば道路は渋滞して結局逃げられないし、
群衆は簡単にパニックになる、という教訓が得られます。
もう1つ、
主人公が給油中に、シェル石油のロゴマークが右上で見え隠れするシーンがあります。
少し分かりにくいですが、これは毒の雲が真上に来ていたという意味です。
ここで毒の雨を浴びたという意味を持たせるため、シェル石油のロゴが雲の切れ間で見え隠れするのです。細かい描写も秀逸ですね。
3. Dylarama
主人公の妻が忘れっぽい、という事で、原因を追究する家族。
その原因は研究中の「ダイラー」という薬の副作用でした。
妻は死の恐怖に耐えられず救いを求めた結果、辿り着いたのが「ダイラー」でした。
ダイラーは失敗作で、妻は服用をやめたのですが、
今度は主人公がダイラーを求めます。
毒の雨を浴びたためいつ死ぬか分からないという事からです。
主人公はダイラーに絡んで妻の不貞を知ってしまい、ミスターグレーを殺す事にしましたが失敗しました。
その流れでなのか、死の恐怖は克服したようです。
この章のタイトルですが、さすがに調べないと意味が分かりません。
日本語では読み方の表示すらなく、唐突に表示された謎のタイトルです。
Dylaramaとは
これはディララマと読む造語です。(丸山調べ)
映画内では正解がないため単なる考察です。
ダイラー=Dylarと、ギリシャ語のHoramaを合わせて
Dylar+Horama ⇒ Dylarama
となります。
ギリシャ語のHoramaは「視力」の意味だそう。
ダイラー+視力、から考えられるのは
ダイラーを使った効果として見えるもの、
または薬としての効果といった感じ。
Horamaには他にもハワイ語で「時間」の意味があり、
この場合もDylaramaは「薬が効いている事」を意味するのでしょう。
つまり、この章のタイトルは内容通り、ダイラーを服用する事に基づいていると考えられます。
もう1つ、
ジオラマ=Diorama
の意味も兼ねているのではないかという指摘もありましたが、こちらは高尚すぎるのでここでは割愛します。
タイトルの意味
無音だと耳鳴りが強調されストレスを感じるので、ホワイトノイズを流す事で耳鳴りが打ち消されて平穏でいられるという感じ。
総合的には、聞いていても邪魔にならないノイズという事です。耳鳴りの人以外でも、精神集中の効果があります。雑音を打ち消すからです。
さて、本作での意味ですが、主人公が死の音だと表現しています。
本作のテーマが死である事から、タイトルの意味を考えると、
周囲で常に聞こえている死の音となります。
つまり、死は常に聞こえている=身近にあるという事です。
そして、そのような死の音=ホワイトノイズは、気になってしまう人もいれば、無視する事もできます。
死への恐怖や意識は人それぞれである、という意味があるのかもしれません。
死生観次第
死生観は人次第です。
この映画を観て死や生についてどう感じるかは個人差があります。
しかし共通する絶対的な部分もあります。
それは、生きているからこそ死に恐怖を感じるという事であり、生と死は一体であるという事です。
災難は遠まわしには死に繋がりますし、ヒトラーの犯罪は多くの死を生みました。
3章全てが死にまつわる話を描いているのです。
主人公夫婦はお互いに、死ぬ事自体ではなく、先に死ぬ事を恐れています。
ここに共感できる人もいれば、身勝手だと思う人もいるでしょう。人それぞれですからね。死が怖くない人もいれば、急に死が怖くなる時もあります。
そんな、人それぞれな視点を乗り越えて、絶対的なものを探してみてはいかがでしょうか。
いくつかの謎
隠された死
あの大男が波に飲まれて死んだ
という展開があります。
誰の事かというと、大学教授達が食事をしているシーンで映る、髭で長髪の山人のような男性です。
この男性は、第1章で二人が講義をしているシーンで部屋の中を外から覗く人物でもあります。
以下は単なる推測に過ぎませんので適当に読み流して下さいね。
エルヴィスの講義を誰がやるか。
この部分で二人の教授が競り合っていた様子が伺えます。
途中までは大男が有利だったようですが、主人公と二人で講義した事で生徒が多数集まりました。
それを見て立ち去った大男。
その後、波に飲まれて死亡し、その影響で、不利だった教授=マーレイが繰り上がってエルヴィスの講義を担当できる事になったのです。
この展開って、大男が自ら波に飲まれて死んだと考えてしまうのは僕だけでしょうか。
そのような描写があるわけではありませんが、本作が死をテーマにしている以上、ここは隠されたテーマとして読み解くべきではないでしょうか。
つまり、
誰かの成功によって誰かに死がもたらされるという現実社会の投影です。
人気の教授にヒトラーの講義を同時に語らせた事で形勢が変わってしまったのです。これではもう勝てない、と大男は悟ったのでしょう。
明確な自殺というわけではないかもしれません。頭のどこかに仕事の失敗が影響して、足が滑ってしまったかもしれません。
細部は不明ながら、他人の成功が死をもたらした事を暗に示唆している出来事と言えるでしょう。
お前を知っている
主人公がミスターグレーを見た時、お前を知っていると言います。
しかしどこで会っていたのでしょうか?
実は、第2章の群衆パニック時に、ぬいぐるみを拾うシーンでした。
主人公が這いつくばりながらぬいぐるみに向かうと、マスクをした何者かが拾ってくれました。
これがミスターグレーです。
探していた人物が、ニアミスしていたという事ですね。
スーパーが象徴するもの
スーパーは生を象徴しています。
スーパーは日常であり、生きるために食料を買いに行く場所だからです。
エンディングでは一家で買い物に来た主人公から始まり、スーパー全体を舞台として全員がそれぞれに踊ります。
最後はレジから全体を映しますが、このシーンが異常に長いんですよね。
この長さは、それぞれの客の人生を意味していると感じました。そうしたら、涙が出てきてしまいました。
なぜ泣いたのでしょうか。個人的な理由があります。
スーパーが生であり、スーパーに通う人々の描写は、それぞれの人生を象徴しています。
コロナの影響で他人を避けて生きる事が当たり前になりました。(そうではない層も相変わらず多いのですが)
うつりたくなければ、他人を避けるしかありません。
そんな中、スーパーはストレスでしかありません。ソーシャルディスタンスという基本に忠実ではない人々の中に行かなくてはならないからです。
生のための行動が、同時に死の中にあるのです。これはストレスです。
本来なら生である場所、スーパー。現在ではそんな視点が欠けている事に気が付きました。そんな事を気づかされたため涙が出たのです。
これからは、スーパーは生であると意識しながら少しでも楽しめるようにできたらいいなと思います。感染は嫌ですけど。
余談ですが
三か国語
銃で撃たれたため、修道院病院のような場所に3人で行きましたが、
とある尼僧が三か国語を話すシーンがあります。
ここでは、日本語字幕、英語字幕、ドイツ語音声が同時に楽しめます。面白いシーンですね。
PV化してほしい
エンディングの曲がかっこいいですね。
映像もかっこいい!
ここだけ繰り返し観たいので、PV化してほしいですw
あと、
クッキーを持つ黒人さんがなぜか同じ場所でずっとゆらゆらしていて面白いのですが、あれは何か特別な意味があるのでしょうか?
対照的な2つの映画
本作は12月30日から配信開始。
その2日前から配信開始された映画『アムステルダム』。
本作が軽快さをもたらす絶妙なコメディ感を駆使しているのに対し、
『アムステルダム』は中途半端でずっこけている感じ。
本作は音楽も秀逸で、場の状況を心理的に盛り上げてくれる効果が抜群なのですが、
『アムステルダム』は…。歴史モノの映画って難しいんだとは思いますが、その難しいところに8000万ドルも投入しちゃいけないんじゃないかと思います。
ホワイトノイズは何度も観たい名作です。
最近のNetflixはほんとにいい仕事する!
あの人が面白い
教授マーレイを演じている、ドン・チードル。
アイアンマンのローズ役で有名になった俳優さんです。
この人、ローズ役もそうですが、絶妙に面白いんですよね。
本作でもいい仕事をしていて、マーレイはほんと面白い。この人がいるからコメディにカテゴライズされていると言ってもいいぐらいです。
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