重要な点が欠けている『バトル・インフェルノ』隠された背景を考察/The Cleansing Hour (2019)
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めっちゃバズりたいYoutuberのライブ配信中に本物の悪魔が出てきちゃうというB級の匂いがプンプンの映画なんですが、意外に面白いという声が多いようです。確かに、思っていたより面白いですね。しかし何かが欠けているようです。重要な点が…。
今回はそこを見ていきたいと思います。ネタバレがあるのでご注意ください。
登場人物
主要な人物は下記の3人です。
- マックス(神父でストリーマー)
- ドリュー(スタジオスタッフ)
- レーン
マックス
分かりやすく言えば彼は登録者5万人のYoutuberです。(Youtubeとは一切関係ありません)
出演者は全て役者であり、悪魔祓いは演技です。つまりやらせ番組なのであります。ただし、現役の神父ではないものの、元神父だそうです。ギリ許せるレベルなのだろうか。
過去にトラウマがあるようで、悪魔からいじめられている時にはたびたび鬼教師の記憶が蘇ります。悪魔が見せているのか、単に思い出しているのかはちょっと分かりにくいですね。
最終的に全部の罪を告白するというかわいそうな役目を負っています。悪魔のいじめ酷すぎ。
この人の名前が書かれた物が映ると「MaxTCH」と書かれています。マキシーと呼ばれていたりするので、これでマキシーって読むの?とか、マックチ…と口が詰まってしまいますが、このTCHってなんでしょうね?
実は、日本の視聴者には分かりにくい事情がありまして…後ほど改めて解説いたします。
ドリュー
カメラを切り替えたり舞台装置を操作したり、番組製作スタッフとして裏方で活躍する男性です。かなり作り込んだ装置なので、費用もお高そうですし、個人レベルとしては相当な労力で完成したスタジオなんだろうなと思いました。
マックスとは親友であるらしいのですが、どうやら過去シーンに登場する男児の髪の色が、現在のマックスとドリューに合うように表現されているようです。ていうか鬼教師の体罰が凄惨過ぎて怖いんですけど。
ドリューはお金が大好きらしく、マックスへの不満がたくさんあるようです。”信頼している裏方がお金に不誠実”という典型的な図式を展開しています。
レーン
頼んでいたコック氏が現れないため代役として番組に出演する事になった女性です。ドリューと良い仲にあるようですね。
特殊メイクでがっつり悪魔になっていきます。さすがに首は回せなかったようですが。ぐちゃっとしたり血が噴き出したり、映画スタッフのどなたも存じ上げない作品としてはクオリティが相当にお高いようです。
以前に誰と付き合っていたかを人目に晒されるきっつい役目を負わされます。つまり、重要なポジションだということです。なんといっても、悪魔担当ですからね。
たまに我に返ったり悪魔に支配されたり。一人二役を演じられる有能な女優さんなんだと思います。
考察ポイント
さて、この映画には重要な点が隠されていると感じた方はいらっしゃいますでしょうか。最後の最後に映るマックスの微妙な笑みに違和感を覚えたりしませんでしたか?
マックスの笑みは、登録者数が400万人増えた、という話の後にこぼれたものです。なので、登録者数が増えたから喜んだんだろうな、と思うのが自然な流れでしょう。しかし微笑んだ後、微かに笑みが減るように見えなくもありません。
マックスは一度、こんな事を言っていました。「登録者数が500万になるならなんでもする」といった感じです。ここがヒントになりそうです。
それでは、問題点を挙げましょう。あれらの悪魔は誰が呼んだのか?という事です。
あらゆる映画に登場する悪魔には基本的な前提があります。例外もあるでしょうけれど、それはいったん置いて、まずは基本から。
悪魔は一体どこにいるのでしょうか?普段からその辺にいるのでしょうか??
いいえ、地獄にいます。誰かが召喚しない限り、地上に現れることはありません。
その辺にいるとしたら、それは既に誰かが呼んだからだ、というわけなんです。
二人の悪魔
面白いことに、本作では悪魔が二人、登場します。一人目の悪魔は名前が判明しますが、二人目については謎のまま終わってしまいました。ちゃんとヒントは出ているので、分かる人には分かる、という状態です。
果たして、二人目の悪魔は誰だったのでしょうか?
その答えは、少ない会話の中で、ドリューの作った「デジタル悪魔大全」に隠されていました。
この悪魔大全についての説明は非常に乏しいのですが、恐らくドリューが書籍の中から必要な部分だけを抜粋して自分たち用にパソコンに打ち込んだものが「デジタル悪魔大全」なのです。ここで注目したいのが、その元ネタはどこから来たのか、です。
ドリュー達が言うには、悪魔大全には全ての名前が載っている、だから名前の分からない悪魔なんていないのだ、というお話です。しかし、目の前の悪魔が誰なのか分かりません。
そこで悪魔はこう言いました。
”It was my list.”
字幕では「俺のリストだ」と言っていますが、ここは英語翻訳の難しいところです。「It was…」は過去形なのに、日本語字幕だと現在形に見えてしまうからです。
俺のリスト、という表現だと、「僕の本です」みたいに、所有者が誰かを言っただけのように見えてしまいます。しかし実際にはそうではなく、悪魔はこのような意味で言ったのです。
それは俺が作ったリストだ、と。
全悪魔のリストを作成できる悪魔ということは、悪魔のトップを意味します。となると、この悪魔はサタンの可能性が高い。人間が太刀打ちできるような相手ではありませんし、悪魔祓いが想定する対象ではないでしょう。首の回る悪魔を祓った有能なエクソシストでさえ無理です。
ここで大切なのはこの悪魔の名前というよりも、それがどういう存在なのか、そして何を言っているのかが分かることだと思います。
この悪魔が、マックスたちが想像もしていなかった存在であり、悪魔大全の元ネタにある悪魔のリストの作者だという事が分かれば十分でしょう。
さて、そんな地獄の王であるサタン(仮)が、勝手に地上に出現する事があるのでしょうか?いいえ、ありません。誰かが呼ばない限り、地獄から出ることはできないのです。
となると、誰が呼んだのか?となるわけですね。
悪魔との契約
悪魔の基本的な前提をあと2つ行きましょう。
1つは、悪魔は人間の悪行を求めるということです。
人が悪の道に染まることが悪魔には必要なのであり、善行は決して求めません。
そこで思い出してほしいのですが、一人目の悪魔のいじめによって、マックスたちは何をさせられたでしょうか?彼らは嘘を明かすことで、罪の告白をさせられたのです。これは、彼らにとっては苦行となります。しかし、真実を明かしたのですからこれは善行となります。懺悔ってやつです。
苦行ならば悪魔にとって良いというわけではありません。悪が広まらなければ悪魔は滅びてしまいます。罪の告白は、悪魔にとって望むべき行為ではないのです。嘘をつき、悪行を繰り返す事こそ悪魔の期待です。
そしてもう1つの前提ですが、悪魔を召喚するからには、何か目的があります。その願いを叶えるために何かと引き換えに契約をするというのが王道のパターンです。
となると、誰かが悪魔を呼び出して、何らかの願いを叶えさせたという背景が浮かんできます。その代償として、悪魔は地上に災いをもたらしたのです。
ここまで見てみると、誰が悪魔と契約を交わしたのかは見えてくるはずです。
マックスです。
マックスは登録者数が増える事を期待して、ライブ配信中に本物の悪魔が出演してくれる事を頼んだのかどうかは分かりませんが、結果としては悪魔の望み通りになったようです。
登録者数が増える代わりに、地上に悪行が蔓延る事になりました。これは、代償としてはかなり不釣り合いに感じます。
それはなぜか。
マックスから何かを奪ったのではなく、多くの人々の命が奪われ、更にはその犯罪が止まずに地上が地獄化してしまったのですから。
悪魔はどこへ
サタン(仮)は、謎の言葉を視聴者に向けて語りました。そして視聴者が悪魔憑きとなって殺人鬼となります。ここは分かりやすくて特に疑問はありません。
しかし見逃しそうな点があります。ケーブルをかじったのです。まるで誰かが金メダルをかじるように…。ケーブルに噛みついて放送終了となった途端、サタン(仮)は消えてしまいます。
この描写とその後の世界の様子から、サタン(仮)は、ケーブルを通して電気信号のように世界中に伝わり、地上を地獄化したのではないか?と考えられます。ケーブルに入ったから、姿が消えたのです。
どう考えても悪魔の契約として不釣り合いな代償だと思うのですがいかがでしょうか。僕だったらそんな契約しませんわよ。
いつ契約したのか?
悪魔との契約について、描写は一切ありません。しかし、見当はつきます。
ライブ配信の時には、既に召喚済みだったのです。
そのヒントは、スタジオに来るはずだったコック氏が襲われるシーンです。地べたを這って歩く二人の悪魔憑きが登場しています。
これらの存在がいた事から、悪魔とは事前に契約済みであり、ライブ配信中にレーンが代役となる事も予め決まっていた事だと分かります。
その他の可能性
今回はマックス召喚説をご紹介しましたが、マックスが召喚したわけではないとも考えられます。それでも物語の辻褄は合います。悪魔召喚については何も描写されていないからです。
その場合はレーンが事前に悪魔憑きになっていた、と考える必要が出てきますし、更に追加のサタン(仮)はどうやって地獄から出てきたのかという疑問も生じます。
ひとまずマックスたちが召喚などの悪さをしていない場合であれば、この映画の悪魔たちは、嘘の悪魔祓いをするストリーマたちに嫌がらせをしに来た、と見ることもできます。
しかし、悪魔の前提としては「誰かと契約をして呼び出され、お互いに何かを得る=双務契約をしている」となるのが自然です。
この映画で望みが叶ったのはマックスであるため、マックスを中心に考えるのが妥当ではないかと思うのです。
おまけー最初の悪魔
本作はメジャー作品ではありませんが、完成度は高く、かなりのこだわりを持って作られたことが分かります。それは最初の悪魔のふるまいに現れているようです。
最初の悪魔は名乗りませんでしたが、ドリューはいくつかの特徴から名前を割り出し、悪魔祓いに成功しました。この悪魔の名前をWikipediaで調べてみると…下記のような特徴があるようです。
- 過去を見せる
- 不和、和解を引き起こす
これらの特徴はマックスたちに実際に起きています。マックスは鬼教師の記憶を体験し、ドリューたちと揉めたり結束したりしています。脚本がしっかりしている事が分かりますね。
同じクリエイターがもっと良い作品を作ってくれることを願います。
おまけーTCHの謎
Maxの名前がMaxTCHとなっていて読み方が分からない問題ですが、これは日本だと特に分かりにくいというか、日本だけ分からないかもしれないのよね?という残念なポイントとなっています。
その答えは、この映画のタイトルにあります。
邦題は『バトル・インフェルノ』です。これだと、「地獄戦闘」みたいな感じでしょうか(ダサいな)。
まぁなんとなく争いがあって、相手は悪魔なのかなぐらいのイメージを持ちやすいという事で考えたのかもしれません。いつもの通り、邦題のセンスに大いに疑問を持ちたいところとなっております。
原題は『ザ・クレンジング・アワー』です。英語だと『The Cleansing Hour』なので、ちょうど頭文字を繋げると「TCH」となりますよね。
実はこのTCHは、作品中でも目にしていたのです。通販グッズなどに使われている彼らのロゴマークです。
彼らの配信チャンネル名が「ザ・クレンジング・アワー」であり、その略語とロゴが「TCH」というのが答えです。
なぜ分かりにくいかというと、映画のタイトルが全く関連のないキーワードになってしまった事と、字幕において「ザ・クレンジング・アワー」が全く登場しない事が原因です。因みに〇〇アワーは番組名によく使われますね(例:「森田一義アワー」)。
映画内ではどのように和訳されていたでしょうか?なんと、「除霊の時間」です。
作品名もチャンネル名も和訳されてしまったために、日本語字幕ユーザには「クレンジングアワー」と「TCH」を知る機会がなくなっていたのです。
そこまで和訳に拘るなら、タイトルも「地獄戦闘」にすれば良かったのに。
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